
木彫り看板には、単なる「お店の顔」以上の価値があると私たちは考えています。今回ご紹介する自転車屋《大江サイクル》様の事例も、その一つです。
時代を超えたモチーフを、あえて選ぶ

今から20年ほど前に作った自転車屋さんの看板です。
モチーフに選んだのは、今時の自転車のデザインではなく、前輪が大きく、後輪が小さな年代物の自転車「ペニーファージング」で、19世紀後期頃につくられていたそうです。

木彫りの看板を作る際、このようにあえて古いモチーフを使うことがあります。
例えば、車をモチーフに制作する際にもそうです。

最新の車のデザインをモチーフにすると、制作したその時点では格好いいのですが10年20年と時が経つと、古臭い印象になってしまいます。
数年後にどんなデザインが流行るか分かりませんから、もし車に詳しい人が見れば、「なんでこんな車をモチーフに?」と、なる可能性も。
そこで、あえて旧式のレトロな車をモチーフにしてしまえば、何年立ってもおしゃれさは変わりません。
これと同じ要領で自転車のモチーフも、最新のかっこいいデザインではなく、あえて「ペニーファージング」を選びました。
元々、私たちが社寺彫刻を手がけてきた工房ということもあり、看板の制作も何十年、何百年先を考えて作るということがベースにあるからかもしれません。
細部に込めたこだわり
毎回、デザインには細部にまでこだわりを詰め込んでいます。
タイヤの部分はあえて真円(キレイな丸)にはしていません。
少し歪んだ形にすると手作りの温かみが感じられるからです。真円はどこか機械的な雰囲気が出てしまいます。

一方、その下にあるお店の名前はきっちりときれいな文字に彫り上げています。識字出来ないデザインにしてしまって、看板としての機能が無ければ本末転倒だからです。
木彫り看板はアートな面もありますが、機能性ももちろん必要です。このバランスを常に意識しながらデザインしています。
また、細かなこだわりですが、自転車は坂道を登っている角度にしてあります。
《お店もこれから上り調子に》という願いを表してあります。
周囲の景観まで計算する
実は、自転車屋さんは郵便局と縁が深いんです。昔は自転車で郵便配達をしていたからだと思いますが、よく自転車屋さんの近くにポストが置かれることも。

こちらの大江サイクルさんの前にも、真っ赤なポストが設置されていました。
そこで、このポストも踏まえた景観になるよう意識しました。
サイズ感や色味もうまく馴染むことを計算することで、ポストに投函しに来た人が「あの自転車屋さんのところのポスト」という認識になり、自然とお店も認知されることを狙っています。
看板は、それ単体だけでなく周囲の環境との調和まで考えてデザインするようにしています。
雨ざらしへの挑戦と、20年後の修復
こちらの自転車屋さん、知り合いのお店だったこともあり、耐候性塗料の実験に付き合っていただきました。
まだこの頃(20年ほど前)は耐候性塗料が発展途上の時でしたので、数年後どのようになるのか、検証が必要だったのです。
木製看板にとって一番の心配事は《雨》です。雨ざらしになる木材はどうしても劣化していきます。当時の耐候性塗料はどの程度のものなのか調べるために、塗料を塗った上で、あえて雨ざらしの看板にさせてもらいました。
設置して数年、やはり色の変色やパーツのガタツキなど、ある程度の変化が見られました。しかし、素木のまま雨ざらしにするよりも、十分見られる程度に劣化を抑えることが出来ました。

20数年前の塗料の効果はこのくらいのものでしたが、現在の耐候性塗料は当時よりもさらに発展し、より効果が発揮されるようになっています。
塗料の精度は上がっていますが、基本的には現在も《完全な雨ざらしではない環境》が望ましいです。
塗料を塗っても、素木のままでも、どちらにせよ経年変化はおきるのですが、よりきれいな経年変化に抑えてくれるのが耐候性塗料の頼もしい役割です。
制作から20数年後
さて、実験に付き合ってもらった看板の現在ですが、昨年、修復作業を行いました。



いくつかのパーツを組み合わせた寄木造りだったので、ガタツキが見られました。また、当初の塗装でめくれている部分があったり、単純な汚れなども見られました。
それらを修復し、最新の塗料で塗り直しました。新品のような見た目に戻す修復ではなく、その経年変化は残しつつ、直すべきところだけを直す作業を行いました。




外看板から、室内インテリアへ
また、この20数年で店主がご高齢になったこともあり、お店の規模を縮小されていました。なので、看板はポスト横に設置はせず、お店の中にしまっておきたいとのご希望で中に置かせてもらう形となりました。
普通、お店を辞める際には看板は処分されることも多いですが、木彫りの看板はその歴史を表してくれる、とずっと手元で飾っていただくことがあります。
ありがたいことに、木彫り看板には単なる看板としての役割以外にも良さを感じてもらえる部分があるようで、そういった話を聞くとこの仕事をしていて良かったなと嬉しい気持ちになります。
《お店の物語を刻んだ証》
それが木彫り看板の、看板以上の価値なのかもしれません。
あなたのお店の物語を、職人と一緒に看板にしませんか。
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